今日は入試に出題される二項係数に関する様々な和について説明します。
二項係数そのものについての知識がない場合は,次の記事を読んで知識を補充して下さい。


次の問題を解けるようになることが目標です。
(2) $\Sum{k=2}{n}k(k-1)\nCk{n}{k}$
(3) $\Sum{k=1}{n}k^2\nCk{n}{k}$
(4) $\Sum{k=0}{n}k(k+1)\nCk{n}{k}$
(5) $\Sum{k=0}{n}(-1)^k\Cdot\dfrac{\nCk{n}{k}}{k+1}$

以前,二項係数の和について学習したのは覚えてるよね。

はい。$\Sum{k=0}{n}\nCk{n}{k}=2^n$ はもうカンペキです。
(1)の解説

(1)は $\nCk{n}{k}$ に $k$ が掛けられていて,係数が変化するのが嫌だね。逆に言えば,定数になって変化しなければ和を求められるっていうこと。

ということで $k\,\nCk{n}{k}=n\,\nCk{n-1}{k-1}$ を利用して係数を定数にしよう。
\Sum{k=1}{n}k\,\nCk{n}{k}&=\Sum{k=1}{n}n\,\nCk{n-1}{k-1} \\[4pt]
&=n\Sum{k=1}{n}\nCk{n-1}{k-1} \\[4pt]
&=n(\nCk{n-1}{0}+\nCk{n-1}{1}+\cdots+\nCk{n-1}{n-1}) \\[4pt]
&=n\Cdota2^{n-1}~\cdots\cdots ①
\end{align*}

もし,問題の式が,2011年の慶應義塾大で出題されたように $\Sum{k={\color{red}0}}{n}k\nCk{n}{k}$ となっている場合は少し注意が必要だよ。
\Sum{k=0}{n}k\,\nCk{n}{k}&=\Sum{k=0}{n}n\,\nCk{n-1}{k-1} \\[4pt]
&=n({\color{red}\nCk{n-1}{-1}}+\nCk{n-1}{0}+\nCk{n-1}{1}+\cdots+\nCk{n-1}{n-1})
\end{align*}

これは,元々の式で $k=0$ のときに0になっていることを考えないとダメだね。次のように変形すると良いよ。
\Sum{k=0}{n}k\,\nCk{n}{k}&={\color{red}0\Cdota\nCk{n}{0}}+1\Cdota\nCk{n}{1}+2\nCk{n}{2}+\cdots+n\nCk{n}{n} \\[4pt]
&=1\Cdota\nCk{n}{1}+2\nCk{n}{2}+\cdots+n\nCk{n}{n} \\[4pt]
&=\Sum{k=1}{n}k\,\nCk{n}{k}
\end{align*}

分かりました!
(2)の解説

(2)も $k(k-1)$ の部分を定数化することを考えれば良いんですね。

そうだね。ちょっと変形が難しいよ。
k(k-1)\nCk{n}{k}&=k(k-1)\Cdota\dfrac{n!}{k!(n-k)!} \\[4pt]
&=k(k-1)\Cdota\dfrac{n!}{k(k-1)(k-2)!(n-k)!} \\[4pt]
&=\dfrac{n!}{(k-2)!(n-k)!} \\[4pt]
&=n(n-1)\Cdota\dfrac{({\color{blue}{n-2}})!}{({\color{green}{k-2}})!\bigl(({\color{blue}{n-2}})-({\color{green}{k-2}})\bigr)!} \\[4pt]
&=n(n-1)\nCk{{\color{blue}{n-2}}}{{\color{green}{k-2}}}
\end{align*}

特に青色と緑色の部分に注意しよう。

なるほど。(1)の変形が少し難しくなっただけでほとんど一緒ですね。

ついでに,この変形がサクッとできるように意味を捉えておこう。

$n$ 人からリーダーとサブリーダーの2人を含む $k$ 人を選ぶ方法の総数を考えよう。その総数を求める方法として,次の2つの考え方がある。
(ii) $n$ 人からリーダーとサブリーダーの2人を選んだ後で,残りの $n-2$ 人からリーダーとサブリーダー以外の $k-2$ 人を選ぶ。

(i)のとき,$n$ 人から $k$ 人を選ぶ方法が $\nCk{n}{k}$ 通りで,その各々について,その $k$ 人からリーダーとサブリーダーを選ぶ方法が $k(k-1)$ 通りある。よって,このときの選ぶ方法の総数は,$k(k-1)\nCk{n}{k}$ 通り。

(ii)のとき,$n$ 人からリーダーとサブリーダーの2人を選ぶ方法が $n(n-1)$ 通りで,その各々について,その2人以外の $n-2$ 人から残りの $k-2$ 人を選ぶ方法が $\nCk{n-2}{k-2}$ 通りある。よって,このときの選ぶ方法の総数は,$n(n-1)\nCk{n-2}{k-2}$ 通り。

(i)と(ii)のどちらで考えても総数は等しいから,
k(k-1)\nCk{n}{k}=n(n-1)\nCk{n-2}{k-2}
\end{align*}

これで(2)もできます。
\Sum{k=2}{n}k(k-1)\nCk{n}{k}&=\Sum{k=2}{n}n(n-1)\nCk{n-2}{k-2} \\[4pt]
&=n(n-1)(\nCk{n-2}{0}+\nCk{n-2}{1}+\cdots+\nCk{n-2}{n-2}) \\[4pt]
&=n(n-1)\Cdota2^{n-2}~\cdots\cdots ②
\end{align*}
(3)の解説

次の(3)をやってみよう。

(1),(2),(3)の順番で出題された場合はメチャ簡単ですね。
\Sum{k=1}{n}k^2\nCk{n}{k}&=\Sum{k=1}{n}\{k+k(k-1)\}\nCk{n}{k} \\[4pt]&=\Sum{k=1}{n}k\nCk{n}{k}+\Sum{k=1}{n}k(k-1)\nCk{n}{k} \\[4pt]&=\Sum{k=1}{n}k\nCk{n}{k}+\Sum{k={\color{red}2}}{n}k(k-1)\nCk{n}{k} \\[4pt]&=n\Cdota2^{n-1}+n(n-1)\Cdota2^{n-2} \\[4pt]&=n\Cdota2^{n-2}\{2+(n-1)\} \\[4pt]&=n(n+1)\Cdota2^{n-2}~\cdots\cdots ③
\end{align*}

こうやって前の問題を利用してしまえば終わりです。

うまく処理したね。ここでは別の変形もやっておこう。
\Sum{k=1}{n}k^2\nCk{n}{k}&=\Sum{k=1}{n}k\Cdota{\color{red}k\nCk{n}{k}} \\[4pt]&=\Sum{k=1}{n}k\Cdota{\color{red}n\nCk{n-1}{k-1}} \\[4pt]&=n\Sum{k=1}{n}\{(k-1)\nCk{n-1}{k-1}+\nCk{n-1}{k-1}\} \\[4pt]&=n\Sum{k={\color{red}2}}{n}(k-1)\nCk{n-1}{k-1}+n\Sum{k=1}{n}\nCk{n-1}{k-1} \\[4pt]&=n\Sum{k=2}{n}(n-1)\nCk{n-2}{k-2}+n\Sum{k=1}{n}\nCk{n-1}{k-1} \\[4pt]&=n(n-1)\Cdota2^{n-2}+n\Cdota2^{n-1} \\[4pt]&=n(n+1)\Cdota2^{n-2}
\end{align*}

いきなりこれが出題されたら結構大変ですね。
(4)の解説

(4)に進もう!これは(1)の続きとして,2011年の慶應義塾大で出題された問題だよ。

主に(1)と(2)を利用するか,(1)と(3)を利用するかの二択だね。ただ,(2)や(3)を利用するにしても,(4)の前にその問題がなかったら,結局しんどいので,楽にする方法を覚えておこう。

2011年の慶應大の入試では(2)も(3)も利用できないですからね。

次の等式を見て,$\nCk{n}{k}$ の係数に $k$ をもってくる方法を考えよう。
(1+x)^n=\Sum{k=0}{n}\nCk{n}{k}x^k~\cdots\cdots(\ast)
\end{align*}

微分ですか?

おぉ!いいね!
n(1+x)^{n-1}=\Sum{k={\color{red}1}}{n}k\nCk{n}{k}x^{k-1}~\cdots\cdots(\ast\ast)
\end{align*}

ここで,シグマの最初の $k$ が1から始まっていることに注意しよう。分かりやすくするために $(\ast)$ の右辺を書き並べてみよう。
((\ast)の右辺)={\color{red}\nCk{n}{0}}+\nCk{n}{1}x+\nCk{n}{2}x^2+\cdots+\nCk{n}{n}x^n
\end{align*}

第1項が定数だから微分すると0になるね。

なるほど。細かいところにも注意が必要ですね。
\Sum{k=1}{n}k\nCk{n}{k}=n\Cdota2^{n-1}
\end{align*}

(1)の式になるんですね。

そうだね。では $(\ast\ast)$ をさらに微分しよう。
n(n-1)(1+x)^{n-2}=\Sum{k={\color{red}2}}{n}k(k-1)\nCk{n}{k}x^{k-2}
\end{align*}
\Sum{k=2}{n}k(k-1)\nCk{n}{k}=n(n-1)\Cdota2^{n-2}
\end{align*}

これで(2)も楽に解けたね。この方法なら(4)が突然出題されても,(1)と(2)を求めてからそれを利用することで楽に(4)も解けるね。
&2\Sum{k=1}{n}k\nCk{n}{k}+\Sum{k=1}{n}k(k-1)\nCk{n}{k} \\[4pt]
&=\Sum{k=1}{n}\{2k+k(k-1)\}\nCk{n}{k} \\[4pt]
&=\Sum{k=1}{n}k(k+1)\nCk{n}{k}
\end{align*}
\Sum{k=0}{n}k(k+1)\nCk{n}{k}&=2n\Cdota2^{n-1}+n(n-1)\Cdota2^{n-2} \\[4pt]
&=n(n+3)\Cdota2^{n-2}
\end{align*}

微分を使うとかなり楽になりますね!
(5)の解説

これは2007年に実施された数学検定1級で出題された問題だから,大学入試では出ないかなぁと思いつつ授業で扱ってきた問題なんだけど・・・

2010年の早稲田大学(人間科学)で出題されたんだよ。しかもノーヒントで。

じゃあ,やっとかないとダメですね。

ということで,どうすれば $\nCk{n}{k}$ の係数に $\dfrac{1}{k+1}$ をもってこれるだろうか?

さっきは微分して $k$ を下ろしてもってきたので,積分すればできそうですよね?

その発想ができるのはいいね!
&\dint{}{}(1+x)^n\;dx=\dint{}{}\Sum{k=0}{n}\nCk{n}{k}x^k\;dx \\[4pt]
&\dfrac{1}{n+1}(1+x)^{n+1}=\Sum{k=0}{n}\nCk{n}{k}\Cdota\dfrac{x^{k+1}}{k+1}+C
\end{align*}

さらっと積分したけど,ちょっとだけ補足しておくよ。多項式を積分するときは,当然だけど各項を積分して足し合わせるだけなので,シグマの中にある $x^k$ を積分すれば良いってことだね。
\dint{}{}\Sum{k=0}{n}\nCk{n}{k}x^k\;dx&=\dint{}{}(\nCk{n}{0}+\nCk{n}{1}x+\nCk{n}{2}x^2+\cdots+\nCk{n}{n}x^n)\;dx \\[4pt]
&=\nCk{n}{0}x+\nCk{n}{1}\Cdota\dfrac{x^2}{2}+\nCk{n}{2}\Cdota\dfrac{x^3}{3}+\cdots+\nCk{n}{n}\Cdota\dfrac{x^{n+1}}{n+1} \\[4pt]
&=\Sum{k=0}{n}\nCk{n}{k}\Cdota\dfrac{x^{k+1}}{k+1}
\end{align*}

なるほど。納得です。

積分すると積分定数の $C$ が出てくるので,定積分にしたいよね。積分定数をどうすれば出てきて欲しい式になるかを考えよう。

とりあえず,片方は $-1$ にするのは絶対ですね。もう一方は消えてくれる0が良いんじゃないですか?

カンペキだね!
&\dint{-1}{0}(1+x)^n\;dx=\dint{-1}{0}\Sum{k=0}{n}\nCk{n}{k}x^k\;dx \\[4pt]
&\Tint{\dfrac{1}{n+1}(1+x)^{n+1}}{-1}{0}=\Sum{k=0}{n}\nCk{n}{k}\Cdota\Tint{\dfrac{x^{k+1}}{k+1}}{-1}{0} \\[4pt]
&\dfrac{1}{n+1}=-\Sum{k=0}{n}\nCk{n}{k}\Cdota\dfrac{(-1)^{k+1}}{k+1} \\[4pt]
&\Sum{k=0}{n}\nCk{n}{k}\Cdota\dfrac{(-1)^k}{k+1}=\dfrac{1}{n+1}
\end{align*}
まとめ

二項係数の和を求める基本的な公式を知っておくのは当然として,微分・積分など,その扱い方についても,しっかり理解して使いこなせるようにしよう。