ある命題を証明する際に,そのままでは証明するのが難しかったり,考えにくいときがあります。
対偶を利用するのも1つの方法ですが,別の方法として背理法という証明方法があります。
- 命題が正しくないと仮定する
- 仮定から得られることに矛盾が生じる
- 仮定が間違っていた
- 命題は正しい
この論法は名探偵コナンのような推理作品で多く使われています。
人物Aが犯人であることを証明する際に次の流れで話が進むことがあります。
- Aが犯人でないと仮定する
- 犯人でなければ知らないことをAが知っている
- これはAが犯人でないことに矛盾する
- よってAが犯人である
難しいところは「犯人でなければ知らないことをAが知っていること」の立証です。
数学の問題でも,矛盾を導く部分がポイントで,難しいところになります。
背理法を利用すると証明しやすい問題
背理法をいつ利用するのかを知っておくと良いかもしれない。
否定語が使われている問題では背理法を利用することを考えよう。
一般的に「○○しない」「○○できない」のような言葉を否定語と言う。
- 無理数
分数で表すことができない数 - 素数
1とその数自身の他には約数がない正の整数 - 互いに素
1以外の公約数をもたない - 無数にある
数えきれないほど多い - 1次独立
2つのベクトルが零ベクトルでなく,平行でない
背理法で証明する場合は結論の否定を仮定するから,上に挙げた例だと次のようにすれば良い。
- 無理数
有理数であると仮定する - 素数
1とその数以外の約数をもつと仮定する - 互いに素
1以外の公約数が存在すると仮定する - 無数にある
有限個存在すると仮定する - 1次独立
2つのベクトルが平行であると仮定する
ベクトルは数学ⅠAの範囲ではないが,ここに記しておく。
1つの基準として否定語で表されている命題の証明に対しては,背理法を利用することを検討することが解けるかどうかの第一歩となる。
背理法を利用した有名な証明問題
2018年に和歌山県立医科大学で出題されている問題は超有名問題なので必ずできるようにしよう。
「分数で表せないこと」を示すから「分数で表せる」と仮定して矛盾を導こう。
$\sqrt{2}$ が有理数であると仮定すると,互いに素な自然数 $m,~n$ を用いて
\sqrt{2}=\dfrac{m}{n}
\end{align*}
&2=\dfrac{m^2}{n^2} \\[4pt]
&2n^2=m^2 \cdots\cdots①
\end{align*}
よって,$m$ は2の倍数である。
ここで $m,~n$ は互いに素であるから $n$ は素因数2をもたない。
このとき①の左辺は素因数2を1個だけもち,右辺は素因数2を2個以上(偶数個)もつから矛盾する。
よって,$\sqrt{2}$ は有理数ではない。
素因数2の個数に着目して証明したけど,教科書に載っているのは次のような証明。
$\sqrt{2}$ が有理数であると仮定すると,互いに素な自然数 $m,~n$ を用いて
\sqrt{2}=\dfrac{m}{n}
\end{align*}
&2n^2=m^2
\end{align*}
$m=2k$ とおいて上の式に代入すると
&2n^2=4k^2 \\[4pt]
&n^2=2k^2
\end{align*}
したがって $m$ と $n$ はともに2の倍数となり,互いに素であることに矛盾する。
よって $\sqrt{2}$ は有理数ではない。
この証明方法は昔から批判されているらしい。
理由は「何をしているのか良く分からないから」
確かに書く量も多く,何をしているのか理解するのが難しい。
教えてもらったことをそのまま何も疑問に思わず,ただ丸暗記するだけでは数学ができるようになるとは思えない。
自分自身で考えて解くことも重要である。
背理法を利用した命題の証明
実際に定期テストで出題された問題を解いてみよう。
背理法で証明しよう。
$\sqrt{5}+\sqrt{15}$ が有理数 $r$ であると仮定すると
\sqrt{5}+\sqrt{15}=r
\end{align*}
&20+10\sqrt{3}=r^2 \\[4pt]
&\sqrt{3}=\dfrac{r^2-20}{10}
\end{align*}
しかしこれは $\sqrt{3}$ は無理数であることと矛盾する。
したがって $\sqrt{5}+\sqrt{15}$ は無理数である。
有理数であると仮定するときに,常に $\dfrac{m}{n}$ のように分数でおく必要はないことを知っておこう。