グレゴリー・ライプニッツ級数とは,奇数の逆数を交互に足したり引いたりすることで π/4 に収束するものです。この級数を見た時点で,その名前が出てこなくても「確か π/4 に収束したような気がする」という感覚をもてるくらいになると良いかもしれません。
ここではグレゴリー・ライプニッツ級数に関連した具体的な入試問題として2007年の名古屋市立大で行われた問題の解説をします。入試問題を通じて,グレゴリー・ライプニッツ級数がどのような形で出題されているのかを知り,問題の考え方と解法を学びましょう。
2007年 名古屋市立大
2007年 名古屋市立大自然数 $n~(n>3)$ について,関数 $f_n(x)$ が
(1) $\dint{0}{1}\dfrac{dx}{1+x^2}$ を求めよ。
(2) $\dint{0}{1}\abs{f_n(x)}\;dx<\dfrac{1}{2n+3}$ が成り立つことを示せ。
(3) であることを証明せよ。
\begin{align*}
f_n(x)=\dfrac{1}{1+x^2}-1+x^2-x^4+x^6-\cdots+(-1)^{n+1}x^{2n}
\end{align*}
を満たしている。このとき次の問いに答えよ。f_n(x)=\dfrac{1}{1+x^2}-1+x^2-x^4+x^6-\cdots+(-1)^{n+1}x^{2n}
\end{align*}
(1) $\dint{0}{1}\dfrac{dx}{1+x^2}$ を求めよ。
(2) $\dint{0}{1}\abs{f_n(x)}\;dx<\dfrac{1}{2n+3}$ が成り立つことを示せ。
(3) であることを証明せよ。
(1)の考え方と解答
(1)は置換方法を覚えておく典型問題ですね!
【(1)の解答】
$x=\tan\theta$ とおくと,
$x=\tan\theta$ とおくと,
\begin{align*}
dx=\dfrac{1}{\cos^2\theta}\;d\theta\,,~~\begin{array}{c|ccc}
x & 0 & \to & 1 \\\hline
\theta & 0 & \to & \dfrac{\pi}{4}
\end{array}
\end{align*}
となるからdx=\dfrac{1}{\cos^2\theta}\;d\theta\,,~~\begin{array}{c|ccc}
x & 0 & \to & 1 \\\hline
\theta & 0 & \to & \dfrac{\pi}{4}
\end{array}
\end{align*}
\begin{align*}
\dint{0}{1}\dfrac{dx}{1+x^2}&=\dint{0}{\frac{\pi}{4}}\dfrac{1}{1+\tan^2\theta}\Cdota\dfrac{1}{\cos^2\theta}\;d\theta \\[4pt]
&=\dint{0}{\frac{\pi}{4}}\;d\theta \\[4pt]
&=\dfrac{\pi}{4}
\end{align*}
\dint{0}{1}\dfrac{dx}{1+x^2}&=\dint{0}{\frac{\pi}{4}}\dfrac{1}{1+\tan^2\theta}\Cdota\dfrac{1}{\cos^2\theta}\;d\theta \\[4pt]
&=\dint{0}{\frac{\pi}{4}}\;d\theta \\[4pt]
&=\dfrac{\pi}{4}
\end{align*}
ヒロ
有名な置換方法をしっかり覚えておこう。
置換積分の重要な置き換え方法
- $\dfrac{1}{a^2+x^2}~\Rightarrow$ $x=a\tan\theta$ とおく。
- $\sqrt{a^2-x^2}~\Rightarrow$ $x=a\sin\theta~(\textrm{or}~~a\cos\theta)$ とおく。
- $\dfrac{1}{\sqrt{a^2+x^2}}~\Rightarrow$ $x+\sqrt{a^2+x^2}=t$ とおく。
- $\dfrac{1}{\sqrt{x^2-a^2}}~\Rightarrow$ $x+\sqrt{x^2-a^2}=t$ または $x=\dfrac{1}{a\cos\theta}$ とおく。
(2)の考え方と解答
(2)はまずは $f_n(x)$ を簡単にすることからやってみます。
【(2)の解答】
\begin{align*}
-1+x^2-x^4+x^6-\cdots+(-1)^{n+1}x^{2n}
\end{align*}
は初項 $-1$,公比 $-x^2~(\neq1)$,項数 $n+1$ の等比数列の和であるから-1+x^2-x^4+x^6-\cdots+(-1)^{n+1}x^{2n}
\end{align*}
\begin{align*}
f_n(x)&=\dfrac{1}{1+x^2}-\dfrac{1-(-x^2)^{n+1}}{1-(-x^2)} \\[4pt]
&=\dfrac{(-x^2)^{n+1}}{1+x^2}
\end{align*}
よってf_n(x)&=\dfrac{1}{1+x^2}-\dfrac{1-(-x^2)^{n+1}}{1-(-x^2)} \\[4pt]
&=\dfrac{(-x^2)^{n+1}}{1+x^2}
\end{align*}
\begin{align*}
\abs{f_n(x)}=\dfrac{x^{2(n+1)}}{1+x^2}
\end{align*}
\abs{f_n(x)}=\dfrac{x^{2(n+1)}}{1+x^2}
\end{align*}
問題はこの後ですね。
ヒロ
定積分を含む不等式では・・・
「両辺をともに積分区間が等しい定積分で表す」ですよね。0から1まで積分して $\dfrac{1}{2n+3}$ になるような関数を考えれば良いってことですね。
ヒロ
そうだね。
あとは不等式の証明だから,$\abs{f_n(x)}$ より大きくなる関数を考えれば良いから・・・
【(2)の解答の続き】
\begin{align*}
\abs{f_n(x)}\leqq x^{2(n+1)}
\end{align*}
であり,\abs{f_n(x)}\leqq x^{2(n+1)}
\end{align*}
\begin{align*}
\dint{0}{1}x^{2(n+1)}\;dx&=\Tint{\dfrac{x^{2n+3}}{2n+3}}{0}{1} \\[4pt]
&=\dfrac{1}{2n+3}
\end{align*}
であるから\dint{0}{1}x^{2(n+1)}\;dx&=\Tint{\dfrac{x^{2n+3}}{2n+3}}{0}{1} \\[4pt]
&=\dfrac{1}{2n+3}
\end{align*}
\begin{align*}
\dint{0}{1}\abs{f_n(x)}\;dx<\dfrac{1}{2n+3}
\end{align*}
が成り立つ。\dint{0}{1}\abs{f_n(x)}\;dx<\dfrac{1}{2n+3}
\end{align*}
できました!
(3)の考え方と解答
ヒロ
(3)は極限の問題だね。
(2)で不等式の証明をしたから,はさみうちの原理ですね!
(1)の定積分の結果も考えるとうまくいきそうです。
【(3)の解答】
\begin{align*}
\dint{0}{1}f_n(x)\;dx&=\dint{0}{1}\left\{\dfrac{1}{1+x^2}-1+x^2-x^4+x^6-\cdots+(-1)^{n+1}x^{2n}\right\}\;dx \\[4pt]
&=\dint{0}{1}\dfrac{dx}{1+x^2}-\Tint{x-\dfrac{1}{3}x^3+\dfrac{1}{5}x^5-\dfrac{1}{7}x^7+\cdots-\dfrac{(-1)^{n+1}}{2n+1}x^{2n+1}}{0}{1} \\[4pt]
&=\dfrac{\pi}{4}-\left\{1-\dfrac{1}{3}+\dfrac{1}{5}-\cdots+\dfrac{(-1)^n}{2n+1}\right\}~\cdots\cdots①
\end{align*}
(2)の結果より\dint{0}{1}f_n(x)\;dx&=\dint{0}{1}\left\{\dfrac{1}{1+x^2}-1+x^2-x^4+x^6-\cdots+(-1)^{n+1}x^{2n}\right\}\;dx \\[4pt]
&=\dint{0}{1}\dfrac{dx}{1+x^2}-\Tint{x-\dfrac{1}{3}x^3+\dfrac{1}{5}x^5-\dfrac{1}{7}x^7+\cdots-\dfrac{(-1)^{n+1}}{2n+1}x^{2n+1}}{0}{1} \\[4pt]
&=\dfrac{\pi}{4}-\left\{1-\dfrac{1}{3}+\dfrac{1}{5}-\cdots+\dfrac{(-1)^n}{2n+1}\right\}~\cdots\cdots①
\end{align*}
\begin{align*}
0<\abs{\dint{0}{1}f_n(x)\;dx}<\dint{0}{1}\abs{f_n(x)}\;dx<\dfrac{1}{2n+3}
\end{align*}
が成り立ち,$\dlim{n\to\infty}\dfrac{1}{2n+3}=0$ であるから,はさみうちの原理より0<\abs{\dint{0}{1}f_n(x)\;dx}<\dint{0}{1}\abs{f_n(x)}\;dx<\dfrac{1}{2n+3}
\end{align*}
\begin{align*}
&\dlim{n\to\infty}\abs{\dint{0}{1}f_n(x)\;dx}=0 \\[4pt]
&\dlim{n\to\infty}\dint{0}{1}f_n(x)\;dx=0~\cdots\cdots②
\end{align*}
①,②より&\dlim{n\to\infty}\abs{\dint{0}{1}f_n(x)\;dx}=0 \\[4pt]
&\dlim{n\to\infty}\dint{0}{1}f_n(x)\;dx=0~\cdots\cdots②
\end{align*}
\begin{align*}
\dlim{n\to\infty}\left\{1-\dfrac{1}{3}+\dfrac{1}{5}-\cdots+\dfrac{(-1)^n}{2n+1}\right\}=\dfrac{\pi}{4}
\end{align*}
\dlim{n\to\infty}\left\{1-\dfrac{1}{3}+\dfrac{1}{5}-\cdots+\dfrac{(-1)^n}{2n+1}\right\}=\dfrac{\pi}{4}
\end{align*}
ヒロ
前回のメルカトル級数と同様に,有理数を無限に足し引きしていくと,無理数になるという結果は面白いね。
不思議な結果ですね。
まとめ
ヒロ
グレゴリー級数という名前はともかく,大学入試としては頻出問題のため,出題された場合は確実に得点を稼ぎたい。
グレゴリー・ライプニッツ級数
\begin{align*}
1-\dfrac{1}{3}+\dfrac{1}{5}-\cdots=\dfrac{\pi}{4}
\end{align*}
1-\dfrac{1}{3}+\dfrac{1}{5}-\cdots=\dfrac{\pi}{4}
\end{align*}