前回に引き続きバーゼル問題に関連した入試問題を扱います。
バーゼル問題とは,平方数の逆数を無限に加え続けるとその和はどうなるかという問題です。1644年にピエトロによって提起されたバーゼル問題は多くの数学者を悩ませましたが,およそ100年後の1735年にオイラーによって解かれました。
今回は2018年に気象大学校で出題された入試問題を通じて,奇数の逆数の2乗和が $\dfrac{\pi^2}{8}$ に収束することを説明します。
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バーゼル問題に関する入試問題【2018年 気象大学校】
&S_n=\Sum{k=1}{2^{n-1}}\left\{\sin\left(\dfrac{2k-1}{2^{n+1}}\right)\pi\right\}^{-2} \\[4pt]
&=\dfrac{1}{\sin^2\left(\dfrac{1}{2^{n+1}}\pi\right)}+\dfrac{1}{\sin^2\left(\dfrac{3}{2^{n+1}}\pi\right)}+\cdots+\dfrac{1}{\sin^2\left(\dfrac{2^n-1}{2^{n+1}}\pi\right)}~(n=1,~2,~\cdots)
\end{align*}
(1) $0<x<\dfrac{\pi}{2}$ のとき
\sin x<x<\tan x
\end{align*}
(2) $0<x<\dfrac{\pi}{4}$ とする。
\dfrac{1}{\sin^2x}+\dfrac{1}{\sin^2\left(\dfrac{\pi}{2}-x\right)}
\end{align*}
(3) $S_{n+1}$ を $S_n$ を用いて表せ。
(4) $\{S_n\}$ の一般項を,和の形を用いずに表せ。
(5) 数列 $\{T_n\}$ を
T_n=\Sum{k=1}{2^{n-1}}\dfrac{1}{(2k-1)^2}~(n=1,~2,~\cdots)
\end{align*}
(1)の考え方と解答
(1)は $\sin x<x<\tan x$ が成り立つことを示す証明問題。
(1)は簡単ですね。
$f(x)=x-\sin x$,$g(x)=\tan x-x$ とおくと
&f'(x)=1-\cos x\geqq0 \\[4pt]
&g'(x)=\dfrac{1}{\cos^2x}-1\geqq0
\end{align*}
&f(x)>f(0)=0 \\[4pt]
&g(x)>g(0)=0
\end{align*}
したがって,$0<x<\dfrac{\pi}{2}$ のとき
\sin x<x<\tan x
\end{align*}
$\dlim{x\to0}\dfrac{\sin x}{x}=1$ の証明などでは,扇形の面積や弧の長さを用いて証明する不等式だけど,図を描くのが面倒だったり,曖昧さがあったりするから,入試の現場では,微分して証明するのが楽で確実かもしれない。
(2)の考え方と解答
$0<x<\dfrac{\pi}{4}$ とする。
\begin{align*}を $\sin2x$ を用いて表せ。
\dfrac{1}{\sin^2x}+\dfrac{1}{\sin^2\left(\dfrac{\pi}{2}-x\right)}
\end{align*}
方針としては,角を $x$ に統一したあと,$\sin x\cos x$ のカタマリを作ることを考えます。
&\dfrac{1}{\sin^2x}+\dfrac{1}{\sin^2\left(\dfrac{\pi}{2}-x\right)} \\[4pt]
&=\dfrac{1}{\sin^2x}+\dfrac{1}{\cos^2x} \\[4pt]
&=\dfrac{\cos^2x+\sin^2x}{\sin^2x\cos^2x} \\[4pt]
&=\dfrac{1}{\dfrac{1}{4}\sin^22x} \\[4pt]
&=\dfrac{4}{\sin^22x}
\end{align*}
これは簡単でした。
(3)の考え方と解答
次は $S_{n+1}$ を $S_n$ を用いて表す問題。
これは(2)がヒントになってるんですね。
&S_n=\Sum{k=1}{2^{n-1}}\left\{\sin\left(\dfrac{2k-1}{2^{n+1}}\right)\pi\right\}^{-2} \\[4pt]
&S_{n+1}=\Sum{k=1}{2^{n}}\left\{\sin\left(\dfrac{2k-1}{2^{n+2}}\right)\pi\right\}^{-2}
\end{align*}
また,角が $x$ から $2x$ になっているが,これは $\dfrac{2k-1}{2^{n+2}}\pi$ の2倍が $\dfrac{2k-1}{2^{n+1}}\pi$ であるからうまくいきそう。どの2つの項を組み合わせるかについては,(2)では角の和が $\dfrac{\pi}{2}$ になっていることに着目する。両端をセットで考えると
&\dfrac{1}{2^{n+2}}\pi+\dfrac{2^{n+1}-1}{2^{n+2}}\pi=\dfrac{2^{n+1}}{2^{n+2}}\pi \\[4pt]
&=\dfrac{\pi}{2}
\end{align*}
S_{n+1}&=\Sum{k=1}{2^{n}}\left\{\sin\left(\dfrac{2k-1}{2^{n+2}}\right)\pi\right\}^{-2} \\[4pt]
&=\Sum{k=1}{2^{n-1}}\left\{\sin\left(\dfrac{2k-1}{2^{n+2}}\right)\pi\right\}^{-2}+\Sum{k=2^{n-1}+1}{2^n}\left\{\sin\left(\dfrac{2k-1}{2^{n+2}}\right)\pi\right\}^{-2} \\[4pt]
&=\Sum{k=1}{2^{n-1}}\left\{\sin\left(\dfrac{2k-1}{2^{n+2}}\right)\pi\right\}^{-2}+\Sum{k=1}{2^{n-1}}\left\{\sin\left(\dfrac{2(k+2^{n-1})-1}{2^{n+2}}\right)\pi\right\}^{-2} \\[4pt]
&=\Sum{k=1}{2^{n-1}}\left\{\dfrac{1}{\sin^2\left(\dfrac{2k-1}{2^{n+2}}\pi\right)}+\dfrac{1}{\sin^2\left(\dfrac{2k+2^{n}-1}{2^{n+2}}\pi\right)}\right\} \\[4pt]
&=\Sum{k=1}{2^{n-1}}\dfrac{4}{\sin^2\left(\dfrac{2k-1}{2^{n+1}}\pi\right)} \\[4pt]
&=4S_n
\end{align*}
2行目から3行目へのシグマの書き換えが重要だね。$k$ の値を $2^{n-1}$ だけずらすことで,第1項と同じ形 $\Sum{k=1}{2^{n-1}}$ を作っていて,それに伴って中身の $k$ もずらしている。この変形をスムーズにできるようにしよう。
(4)の考え方と解答
次の(4)は数列 $\{S_n\}$ の一般項を求める問題。
(3)で導いた等比型の漸化式を解くだけですね。
(3)の結果より,数列 $\{S_n\}$ は初項 $S_1$,公比4の等比数列をなすから
S_n&=S_1\Cdota4^{n-1}
\end{align*}
S_1=\dfrac{1}{\sin^2\dfrac{\pi}{4}}=2
\end{align*}
&S_n=2\Cdota4^{n-1} \\[4pt]
&S_n=2^{2n-1}
\end{align*}
(3)が出来なければ(4)も出来ないので怖いですね。
(5)の考え方と解答
数列 $\{T_n\}$ を
\begin{align*}で定める。$\dlim{n\to\infty}T_n$ を求めよ。
T_n=\Sum{k=1}{2^{n-1}}\dfrac{1}{(2k-1)^2}~(n=1,~2,~\cdots)
\end{align*}
(1)の不等式を利用してないので,これを利用してはさみうちの原理で極限を求めるのだと思います。
(1)の結果より,$0<x<\dfrac{\pi}{4}$ のとき
\sin x<x<\tan x
\end{align*}
&\dfrac{1}{\tan^2x}<\dfrac{1}{x^2}<\dfrac{1}{\sin^2x} \\[4pt]
&\dfrac{1}{\sin^2x}-1<\dfrac{1}{x^2}<\dfrac{1}{\sin^2x}
\end{align*}
\dfrac{1}{\sin^2\left(\dfrac{2k-1}{2^{n+1}}\pi\right)}-1<\dfrac{1}{\left(\dfrac{2k-1}{2^{n+1}}\pi\right)^2}<\dfrac{1}{\sin^2\left(\dfrac{2k-1}{2^{n+1}}\pi\right)}
\end{align*}
&\Sum{k=1}{2^{n-1}}\left\{\dfrac{1}{\sin^2\left(\dfrac{2k-1}{2^{n+1}}\pi\right)}-1\right\}<\Sum{k=1}{2^{n-1}}\dfrac{1}{\left(\dfrac{2k-1}{2^{n+1}}\pi\right)^2}<\Sum{k=1}{2^{n-1}}\dfrac{1}{\sin^2\left(\dfrac{2k-1}{2^{n+1}}\pi\right)} \\[4pt]
&S_n-2^{n-1}<\dfrac{2^{2n+2}}{\pi^2}T_n<S_n
\end{align*}
&2^{2n-1}-2^{n-1}<\dfrac{2^{2n+2}}{\pi^2}T_n<2^{2n-1} \\[4pt]
&\dfrac{2^{2n-1}-2^{n-1}}{2^{2n+2}}\pi^2<T_n<\dfrac{2^{2n-1}}{2^{2n+2}}\pi^2 \\[4pt]
&\left(\dfrac{1}{8}-\dfrac{1}{2^{n+3}}\right)\pi^2<T_n<\dfrac{\pi^2}{8}
\end{align*}
\dlim{n\to\infty}T_n=\dfrac{\pi^2}{8}
\end{align*}
入試問題から分かることとバーゼル問題に関連する動画の紹介
1+\dfrac{1}{3^2}+\dfrac{1}{5^2}+\cdots=\dfrac{\pi^2}{8}
\end{align*}
S=1+\dfrac{1}{2^2}+\dfrac{1}{3^2}+\cdots
\end{align*}
\dfrac{1}{4}S=\dfrac{1}{2^2}+\dfrac{1}{4^2}+\dfrac{1}{6^2}+\cdots
\end{align*}
\dfrac{3}{4}S=1+\dfrac{1}{3^2}+\dfrac{1}{5^2}+\cdots
\end{align*}
&\dfrac{3}{4}S=\dfrac{\pi^2}{8} \\[4pt]
&S=\dfrac{\pi^2}{6}
\end{align*}
このようにしても,前回のバーゼル問題の結果を示すこともできる。
また,バーゼル問題を扱った有名ユーチューバーの動画も多数あるので,視聴すると勉強になるだろう。
【鈴木貫太郎さん】
$\sin x$ のマクローリン展開から因数分解を利用した解法で説明されています。
【鈴木貫太郎さん】
$\cos x$ のマクローリン展開から因数分解を利用した解法で説明されています。
貫太郎さんの握った寿司を食べたい・・・
【式変形チャンネル】
この記事で扱った気象大学校の入試問題の解法に沿った説明をされています。
【タマキ/環耀の数学】
光の強さが観測者からの距離の2乗に反比例することを利用して中学数学で説明されています。
【海外の動画】
環耀の数学で解説している光の強さが観測者からの距離の2乗に反比例するアニメーションを見ることができる動画です。英語で解説されていますが,タマキさんの動画を見たあとに見ると,英語が分からなくても楽しめると思います。