漸化式パターン9は数列の一般項の積・累乗・累乗根を含む漸化式であり,誘導がつく問題が多いです。そのため,最初から何をすれば良いか分からないということはないかもしれません。しかし,誘導がある問題が多いだけで常に誘導があるとは限りません。誘導がなくても解けるようにしておくことで,誘導がなかった場合に他の受験生より有利になります。
それでは,最初の問題はこちらです。
平方根を含む漸化式
この漸化式が難しく感じる点は平方根の部分だろう。平方根は $\dfrac{1}{2}$ 乗と捉えることができ,指数部分を係数にできれば,この漸化式の困難はなくなる。これを可能にするのが対数をとること。
また,対数をとるときには真数になるものが正であることを示しておく必要がある。つまり,今回の場合,$a_n$ が正であることを示しておく必要がある。
漸化式を利用してすべての自然数に対して成り立つことを証明する場合は,数学的帰納法を利用すれば良い。
$a_1=3>0$ であり,$a_n>0$ のとき
a_{n+1}=3\sqrt{a_n}~\cdots\cdots①
\end{align*}
①の両辺の底を3とする対数をとると
&\log_3a_{n+1}=\log_33\sqrt{a_n} \\[4pt]
&\log_3a_{n+1}=\dfrac{1}{2}\log_3a_n+1
\end{align*}
b_{n+1}=\dfrac{1}{2}b_n+1
\end{align*}
これでパターン2になった。特性方程式を利用して漸化式を解こう。
変形すると
&b_{n+1}-2=\dfrac{1}{2}(b_n-2)
\end{align*}
&b_n-2=(b_1-2)\left(\dfrac{1}{2}\right)^{n-1}
\end{align*}
b_1=\log_3a_1=1
\end{align*}
&b_n=-\left(\dfrac{1}{2}\right)^{n-1}+2
\end{align*}
積を和で表すことを考える
次の問題を解いてみよう。
a_1=1,~a_2=3,~a_{n+2}a_n=2{a_{n+1}}^2~(n=1,2,3,\cdots)
\end{align*}
(2) 一般項 $a_n$ を求めよ。
(1)は数学的帰納法で証明しよう。
すべての正の整数 $n$ に対して $a_n>0$ が成り立つことを数学的帰納法で証明する。
(i) $a_1=1>0,~a_2=3>0$ より,$n=1,~2$ のとき,$a_n>0$ は成り立つ。
(ii) $a_k>0,~a_{k+1}>0$ であると仮定すると,$a_{k+2}a_k=2{a_{k+1}}^2$ より
a_{k+2}=\dfrac{2{a_{k+1}}^2}{a_k}>0
\end{align*}
(i),(ii)より,すべての正の整数 $n$ について,$a_n$ は正である。
与えられた漸化式は隣り合う三項の間で成り立つ漸化式だけど,パターン6のように $a_{n+2}$ が $a_{n+1}$ と $a_n$ の定数倍の和では表されていない。
(1)の結果より,与えられた漸化式の両辺は正である。よって,両辺の底を2とする対数をとると
&\log_2a_{n+2}a_n=\log_22{a_{n+1}}^2 \\[4pt]
&\log_2a_{n+2}+\log_2a_n=1+2\log_2a_{n+1}~\cdots\cdots①
\end{align*}
b_{n+2}+b_n=2b_{n+1}+1
\end{align*}
これでパターン6になったね。特性方程式を利用して一般項を求めよう。
&x^2-2x+1=0 \\[4pt]
&(x-1)^2=0 \\[4pt]
&x=1
\end{align*}
b_{n+2}-b_{n+1}=(b_{n+1}-b_n)+1
\end{align*}
&b_1=\log_2a_1=0 \\[4pt]
&b_2=\log_2a_2=\log_23
\end{align*}
b_{n+1}-b_n=n+\log_23-1
\end{align*}
b_n&=b_1+\Sum{k=1}{n-1}(k-1+\log_23) \\[4pt]
&=\dfrac{1}{2}(n-2)(n-1)+(n-1)\log_23 \\[4pt]
&=\dfrac{1}{2}(n-2)(n-1)+\log_23^{n-1}
\end{align*}
&a_n=2^{\frac{1}{2}(n-2)(n-1)+\log_23^{n-1}} \\[4pt]
&a_n=2^{\frac{1}{2}(n-2)(n-1)}\Cdota3^{n-1}
\end{align*}
うまく誘導に乗ろう
次の問題を解いてみよう。
\dfrac{S_{n+1}}{S_n}=10^n
\end{align*}
(1) 数列 $\{b_n\}$ の漸化式を導け。
(2) 設問(1)の漸化式を用いて $\{b_n\}$ の一般項を求めよ。
(3) 数列 $\{a_n\}$ の $n\geqq2$ での一般項を求めよ。
$S_n$ があるため,パターン8と思うかもしれないが,漸化式の形としては,パターン7の $a_{n+1}=f(n)a_n$ 型の漸化式である。$10^n$ があり,$n$ を指数から係数にするために,対数をとるように誘導されているんだなと気付けるようにしよう。
$a_n>0$ より,$S_n>0$ であるから,$\dfrac{S_{n+1}}{S_n}=10^n$ の両辺の底を10とする対数をとると
&\log_{10}\dfrac{S_{n+1}}{S_n}=\log_{10}10^n \\[4pt]
&\log_{10}S_{n+1}-\log_{10}S_n=n \\[4pt]
&b_{n+1}-b_n=n \\[4pt]
&b_{n+1}=b_n+n
\end{align*}
これで階差型になったから $b_n$ を求めることができる。
$a_1=1$ より,$b_1=\log_{10}a_1=0$
$n\geqq2$ のとき
&b_n=b_1+\Sum{k=1}{n-1}k \\[4pt]
&b_n=\dfrac{1}{2}(n-1)n
\end{align*}
$b_n$ が求まったことによって,$S_n$ が分かり,$a_n$ も分かるという仕組みだね。
$b_n=\log_{10}S_n$ より,
&S_n=10^{b_n} \\[4pt]
&S_n=10^{\frac{1}{2}(n-1)n}
\end{align*}
a_n=10^{\frac{1}{2}(n-1)n}-10^{\frac{1}{2}(n-2)(n-1)}
\end{align*}
うまく変形しよう
次はこの問題を解いてみよう。
a_1=3,~a_{n+1}={a_n}^2-2a_n+2~(n=1,2,3,\cdots)
\end{align*}
(2) 一般項 $a_n$ を $n$ の式で表せ。
(3) $a_{n+2}-2$ は $a_n$ の倍数であることを示せ。
個人的に思うことだけど,兵庫県立大は中々難しい問題を出題する。「こんなのどうするんだ?」と思うような問題が出題されたり,当たり前に成り立つようなことを証明させたり,解答の書き方が難しい問題が多いような気がする。受験する人は過去問を解いてしっかり対策しておこう。
さて,与えられた漸化式に $n=1,2$ を代入して $a_3$ を求めよう。
$a_{n+1}={a_n}^2-2a_n+2~\cdots\cdots①$ において $n=1$ とすると
a_2&={a_1}^2-2a_1+2 \\[4pt]
&=3^2-2\Cdota3+2 \\[4pt]
&=5
\end{align*}
a_3&={a_2}^2-2a_2+2 \\[4pt]
&=5^2-2\Cdota5+2 \\[4pt]
&=17
\end{align*}
(2)はこのままではどうにもならないね。右辺の $a_n$ を1か所にまとめることを考えよう。2次式で変数を1か所にまとめる方法として,平方完成がある。
この時点で解ける気がしてくればいい感じ。パターン7のときにも説明した「同じ形」を作ることを意識しよう。右辺の1を左辺に移項すれば同じ形が作れるね。
①より
a_{n+1}-1=(a_n-1)^2~\cdots\cdots②
\end{align*}
&\log_{2}(a_{n+1}-1)=2\log_{2}(a_n-1)
\end{align*}
b_1=\log_{2}(a_1-1)=\log_{2}2=1
\end{align*}
b_n&=b_1\Cdota2^{n-1}=2^{n-1}
\end{align*}
&a_n=2^{2^{n-1}}+1
\end{align*}
(3)は省いても良かったけど解説しておくよ。まず気になるのは $a_{n+2}-2$ の $-2$ の部分。何故2を引いてるのか・・・それを調べるためにも $a_{n+2}$ がどういうものなのかを考えてみよう。
a_{n+2}={a_{n+1}}^2-2a_{n+1}+2
\end{align*}
a_{n+2}-2&={a_{n+1}}^2-2a_{n+1} \\[4pt]
&=a_{n+1}(a_{n+1}-2)
\end{align*}
これで $a_{n+2}-2$ が $a_{n+1}$ と $a_{n+1}-2$ の倍数であることが分かったね。そして,この時点で「なるほど~」と思って欲しい。
赤い部分が同じ形になっている。ということは
a_{n+1}-2=a_n(a_n-2)
\end{align*}
では解答に進もう。
①より
a_{n+2}-2&={a_{n+1}}^2-2a_{n+1} \\[4pt]
&=a_{n+1}(a_{n+1}-2) \\[4pt]
&=a_{n+1}a_n(a_n-2)
\end{align*}
a_{n+2}-2&=2^{2^{n+1}}-1
\end{align*}
積・累乗・累乗根を含む漸化式の解法
漸化式パターン9の解法をまとめておこう。
- 基本的に対数をとることで対処できる。その際には真数が正であることを示しておく。
- パターン8以外になるので,対応したパターンの解法を思い出して解く。
- 最初の置き換えを利用して,一般項を求める。
練習問題
それでは練習しておこう。
しっかり理解できていれば解けるだろう。
$a_1>0,~a_2>0$ であり,$a_n>0,~a_{n+1}>0$ のとき,漸化式
a_{n+2}={a_n}^{-2}{a_{n+1}}^3~\cdots\cdots①
\end{align*}
&\log a_{n+2}=-2\log a_n+3\log a_{n+1}
\end{align*}
&b_{n+2}=3b_{n+1}-2b_n \\[4pt]
&\begin{cases}
b_{n+2}-b_{n+1}=2(b_{n+1}-b_n) \\[4pt]
b_{n+2}-2b_{n+1}=b_{n+1}-2b_n
\end{cases}
\end{align*}
\begin{cases}
b_{n+1}-b_n=(b_2-b_1)\Cdot2^{n-1} \\[4pt]
b_{n+1}-2b_n=b_2-2b_1
\end{cases}
\end{align*}
&b_1=\log a_1=0 \\[4pt]
&b_2=\log a_2=1
\end{align*}
\begin{cases}
b_{n+1}-b_n=2^{n-1} &~\cdots\cdots② \\[4pt]
b_{n+1}-2b_n=1 &~\cdots\cdots③
\end{cases}
\end{align*}
b_n=2^{n-1}-1
\end{align*}
上と同じ解答だろうか?違う人は,漸化式を見る目を鍛えているのだろう。
$a_{n+2}={a_n}^{-2}{a_{n+1}}^3$ の両辺を ${a_{n+1}}^2$ で割ると
&\dfrac{a_{n+2}}{{a_{n+1}}^2}=\dfrac{a_{n+1}}{{a_n}^2}
\end{align*}
&\dfrac{a_{n+1}}{{a_n}^2}=\dfrac{a_2}{{a_1}^2} \\[4pt]
&a_{n+1}=e{a_n}^2
\end{align*}
&\log a_{n+1}=2\log a_n+1 \\[4pt]
&\log a_{n+1}+1=2(\log a_n+1)
\end{align*}
&\log a_n+1=(\log a_1+1)\Cdota2^{n-1} \\[4pt]
&\log a_n=2^{n-1}-1 \\[4pt]
&a_n=e^{2^{n-1}-1}
\end{align*}
まとめ
積や累乗・累乗根を含む漸化式(パターン9)では,基本的に対数をとることで他のパターンに帰着することができる。問題によっては,うまく変形することで,最初に対数をとるより楽に解ける場合がある。