「King Property」を利用した定積分の問題を解説します。
大学入試問題に出題される定積分の問題には,誘導があるものもあれば誘導がないものもあります。
誘導があれば,それにしたがって解けば良いため,比較的簡単な問題になります。
しかし誘導がなければ「解いたことがある」「ポイントを知っている」ことが解ける・解けないを分けてしまうこともあります。
時間が無制限ならじっくり考えることもできますが,限られた試験時間内で解ききるためにも,一度は経験しておきたい問題は少なからずあります。
何事も経験が大切です。知識を積み上げましょう。
Contents
定積分の問題
ヒロ
それでは次の問題を解いてみよう。
定積分の問題$\dint{-\frac{\pi}{2}}{\frac{\pi}{2}}\dfrac{\sin^2x}{1+e^{-x}}\;dx$ を求めよ。
定積分の問題の考え方と解答
ヒロ
この定積分では置換積分をするにしても,何をどう置き換えるのかが悩むことになるね。
さっぱり分かりません。
ヒロ
定積分で適当に置換積分をすると,必然的に積分区間も変わってくるため対称性が崩れる可能性がある。
ヒロ
今回の場合,$\sin^2x$ は積分区間が $-\dfrac{\pi}{2}\leqq x\leqq\dfrac{\pi}{2}$ で $x=0$ に関して対称な区間になっているね。
なるほど。
ヒロ
対称性を崩したくないから,積分区間を変えないような置換をしよう。
King Propertyですね!
今回の場合は $t=-x$ と置くんですか?
ヒロ
それでやってみよう。
【定積分の問題の解答】
$-x=t$ とおくと
$-x=t$ とおくと
\begin{align*}
\begin{array}{c|ccc}
x & -\dfrac{\pi}{2} & \to & \dfrac{\pi}{2} \\\hline
t & \dfrac{\pi}{2} & \to & -\dfrac{\pi}{2}
\end{array},~~-dx=dt
\end{align*}
よって\begin{array}{c|ccc}
x & -\dfrac{\pi}{2} & \to & \dfrac{\pi}{2} \\\hline
t & \dfrac{\pi}{2} & \to & -\dfrac{\pi}{2}
\end{array},~~-dx=dt
\end{align*}
\begin{align*}
\dint{-\frac{\pi}{2}}{\frac{\pi}{2}}\dfrac{\sin^2x}{1+e^{-x}}\;dx
&=\dint{\frac{\pi}{2}}{-\frac{\pi}{2}}\dfrac{\sin^2(-t)}{1+e^t}\Cdota(-1)\;dt \\[4pt]
&=\dint{-\frac{\pi}{2}}{\frac{\pi}{2}}\dfrac{\sin^2t}{1+e^t}\;dt \\[4pt]
&=\dint{-\frac{\pi}{2}}{\frac{\pi}{2}}\dfrac{\sin^2x}{1+e^x}\;dx
\end{align*}
\dint{-\frac{\pi}{2}}{\frac{\pi}{2}}\dfrac{\sin^2x}{1+e^{-x}}\;dx
&=\dint{\frac{\pi}{2}}{-\frac{\pi}{2}}\dfrac{\sin^2(-t)}{1+e^t}\Cdota(-1)\;dt \\[4pt]
&=\dint{-\frac{\pi}{2}}{\frac{\pi}{2}}\dfrac{\sin^2t}{1+e^t}\;dt \\[4pt]
&=\dint{-\frac{\pi}{2}}{\frac{\pi}{2}}\dfrac{\sin^2x}{1+e^x}\;dx
\end{align*}
ほとんど何も変わってないように見えるんですけど・・・
ヒロ
ここで次の等式がポイントとなる。
有名な等式次の等式は頻出なので知っておこう。
\begin{align*}
\dfrac{1}{1+e^{-x}}+\dfrac{1}{1+e^x}=1
\end{align*}
【証明】\dfrac{1}{1+e^{-x}}+\dfrac{1}{1+e^x}=1
\end{align*}
\begin{align*}
&\dfrac{1}{1+e^{-x}}+\dfrac{1}{1+e^x} \\[4pt]
&=\dfrac{e^x}{e^x+1}+\dfrac{1}{1+e^x} \\[4pt]
&=\dfrac{e^x+1}{e^x+1} \\[4pt]
&=1
\end{align*}
&\dfrac{1}{1+e^{-x}}+\dfrac{1}{1+e^x} \\[4pt]
&=\dfrac{e^x}{e^x+1}+\dfrac{1}{1+e^x} \\[4pt]
&=\dfrac{e^x+1}{e^x+1} \\[4pt]
&=1
\end{align*}
なるほど。もう解けますね。
【定積分の問題の解答の続き】
ここで $f(x)=\dfrac{\sin^2x}{1+e^{-x}}$ とおくと
ここで $f(x)=\dfrac{\sin^2x}{1+e^{-x}}$ とおくと
\begin{align*}
f(x)+f(-x)&=\sin^2x\left(\dfrac{1}{1+e^{-x}}+\dfrac{1}{1+e^x}\right) \\[4pt]
&=\sin^2x
\end{align*}
よって,f(x)+f(-x)&=\sin^2x\left(\dfrac{1}{1+e^{-x}}+\dfrac{1}{1+e^x}\right) \\[4pt]
&=\sin^2x
\end{align*}
\begin{align*}
\dint{-\frac{\pi}{2}}{\frac{\pi}{2}}f(x)\;dx&
+\dint{-\frac{\pi}{2}}{\frac{\pi}{2}}f(-x)\;dx
=\dint{-\frac{\pi}{2}}{\frac{\pi}{2}}\sin^2x\;dx \\[4pt]
2\dint{-\frac{\pi}{2}}{\frac{\pi}{2}}f(x)\;dx&
=\dint{-\frac{\pi}{2}}{\frac{\pi}{2}}\dfrac{1-\cos2x}{2}\;dx \\[4pt]
\dint{-\frac{\pi}{2}}{\frac{\pi}{2}}f(x)\;dx&
=\dfrac12\dint{0}{\frac{\pi}{2}}(1-\cos2x)\;dx \\[4pt]
&=\dfrac12\Tint{x-\dfrac12\sin2x}{0}{\frac{\pi}{2}} \\[4pt]
&=\dfrac{\pi}{4}
\end{align*}
\dint{-\frac{\pi}{2}}{\frac{\pi}{2}}f(x)\;dx&
+\dint{-\frac{\pi}{2}}{\frac{\pi}{2}}f(-x)\;dx
=\dint{-\frac{\pi}{2}}{\frac{\pi}{2}}\sin^2x\;dx \\[4pt]
2\dint{-\frac{\pi}{2}}{\frac{\pi}{2}}f(x)\;dx&
=\dint{-\frac{\pi}{2}}{\frac{\pi}{2}}\dfrac{1-\cos2x}{2}\;dx \\[4pt]
\dint{-\frac{\pi}{2}}{\frac{\pi}{2}}f(x)\;dx&
=\dfrac12\dint{0}{\frac{\pi}{2}}(1-\cos2x)\;dx \\[4pt]
&=\dfrac12\Tint{x-\dfrac12\sin2x}{0}{\frac{\pi}{2}} \\[4pt]
&=\dfrac{\pi}{4}
\end{align*}