定積分を含む不等式の証明の問題の第四弾です。今回の記事は,前回の記事のようにグラフを描いて面積の大小関係を色々と考えるのが苦手な人にとって,役に立つかもしれない記事です。
したがって,グラフを利用してスラスラと不等式を証明できてしまう優秀な人には無用のものとなるかもしれません。
しかし,何回説明を聞いても,説明を理解することはできても,自力では問題を解けるようにならない人がいるのも事実です。1つの解法に拘らず,他の解法を知ることで,自力で問題を解けるようになるかもしれないし,今まで扱いきれなかった解法を扱えるようになるかもしれません。
この記事が役に立ったと思う方が1人でもいれば幸いです。
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2003年 愛知教育大の入試問題の考え方
\dfrac{1}{(n+1)^2}\leqq\dint{n}{n+1}\dfrac{1}{x^2}\;dx\leqq\dfrac{1}{n^2}
\end{align*}
1+\dfrac{1}{2^2}+\dfrac{1}{3^2}+\cdots+\dfrac{1}{n^2}\leqq2-\dfrac{1}{n}
\end{align*}
グラフを描いて,図形の面積の大小関係を色々考えるのが苦手な人は,ほとんどグラフを描かずに数式を変形するだけで証明する方法を身に付けると良いかもしれない。
定積分を含む不等式の証明では,すべての辺を同じ積分区間の定積分で表そう。その際には次のことを考えよう。
\dint{a}{b}k\;dx=\tint{kx}{a}{b}=k(b-a)
\end{align*}
今回の問題では,$n$ から $n+1$ までの定積分で表すことを考える。
\dint{n}{n+1}\dfrac{1}{(n+1)^2}\;dx\leqq\dint{n}{n+1}\dfrac{1}{x^2}\;dx\leqq\dint{n}{n+1}\dfrac{1}{n^2}\;dx
\end{align*}
あとはpart1の記事で書いた「定積分と不等式」を利用,つまり積分範囲における被積分関数の大小関係を考えて,与えられた不等式を証明するだけだね。
$n\leqq x\leqq n+1$ において,$\dfrac{1}{(n+1)^2}\leqq\dfrac{1}{x^2}\leqq\dfrac{1}{n^2}$ が成り立つから
&\dint{n}{n+1}\dfrac{1}{(n+1)^2}\;dx\leqq\dint{n}{n+1}\dfrac{1}{x^2}\;dx\leqq\dint{n}{n+1}\dfrac{1}{n^2}\;dx \\[4pt]
&\dfrac{1}{(n+1)^2}\leqq\dint{n}{n+1}\dfrac{1}{x^2}\;dx\leqq\dfrac{1}{n^2}
\end{align*}
では,もう1つの不等式を証明しよう。
前回part3の記事でも書いたように,まずは微分積分の関係に着目しよう。
$\left(-\dfrac{1}{x}\right)’=\dfrac{1}{x^2}$ であることを考えて,証明するべき不等式を変形しよう。
\dint{p}{q}\dfrac{1}{x^2}\;dx&=\Tint{-\dfrac{1}{x}}{p}{q} \\[4pt]
&=-\dfrac{1}{q}+\dfrac{1}{p}
\end{align*}
&\Sum{k=2}{n}\dfrac{1}{k^2}\leqq1-\dfrac{1}{n^2}
\end{align*}
1-\dfrac{1}{n^2}=\dint{1}{n}\dfrac{1}{x^2}\;dx
\end{align*}
&\Sum{k=2}{n}\dfrac{1}{k^2}\leqq\dint{1}{n}\dfrac{1}{x^2}\;dx
\end{align*}
$\Sigma$ と $\dint{}{}$ があるときは,$\Sigma$ を優先して,両辺を $\Sigma$ を使って表そう。
\Sum{k=2}{n}\dfrac{1}{k^2}\leqq\Sum{k=2}{n}\dint{k-1}{k}\dfrac{1}{x^2}\;dx
\end{align*}
\dfrac{1}{k^2}\leqq\dint{k-1}{k}\dfrac{1}{x^2}\;dx
\end{align*}
\dint{k-1}{k}\dfrac{1}{k^2}\;dx\leqq\dint{k-1}{k}\dfrac{1}{x^2}\;dx
\end{align*}
この後は $k-1\leqq x\leqq k$ において,$\dfrac{1}{k^2}\leqq\dfrac{1}{x^2}$ が成り立つことを証明すれば良いけど,これは簡単というかそのままだね。実際の証明では,今考えたことを逆に書いていくだけで完璧な答案を仕上げることができる。
$k$ を2以上の整数とすると,$k-1\leqq x\leqq k$ において,
\dfrac{1}{k^2}\leqq\dfrac{1}{x^2}
\end{align*}
&\dint{k-1}{k}\dfrac{1}{k^2}\;dx\leqq\dint{k-1}{k}\dfrac{1}{x^2}\;dx \\[4pt]
&\dfrac{1}{k^2}\leqq\dint{k-1}{k}\dfrac{1}{x^2}\;dx
\end{align*}
\Sum{k=2}{n}\dfrac{1}{k^2}\leqq\Sum{k=2}{n}\dint{k-1}{k}\dfrac{1}{x^2}\;dx
\end{align*}
\Sum{k=2}{n}\dint{k-1}{k}\dfrac{1}{x^2}\;dx&=\dint{1}{n}\dfrac{1}{x^2}\;dx \\[4pt]
&=\Tint{-\dfrac{1}{x}}{1}{n} \\[4pt]
&=1-\dfrac{1}{n}
\end{align*}
\Sum{k=2}{n}\dfrac{1}{k^2}\leqq1-\dfrac{1}{n}
\end{align*}
1+\dfrac{1}{2^2}+\dfrac{1}{3^2}+\cdots+\dfrac{1}{n^2}\leqq2-\dfrac{1}{n}
\end{align*}
\Sum{n=1}{\infty}\dfrac{1}{n^2}=\dfrac{\pi^2}{6}
\end{align*}
これはバーゼル問題と呼ばれる有名問題の1つであるが,また別の記事で扱うことにする。