$\tan\dfrac{x}{2}=t$ とおくと,$\sin x,~\cos x,~\tan x$ をすべて $t$ で表すことができます。このこと自体は教科書でも扱われるくらい基本的事項のため,知らなかった人は,ここでしっかり学習していきましょう。
しかし,これらの等式を学ぶのは数学IIであるため,$\tan\dfrac{x}{2}=t$ とおくことで,三角関数の有理式の定積分を計算できると知ることもなく,解答を見て「そんなの思いつかない」と文句を言っている人が少なくありません。
したがって,$\tan\dfrac{x}{2}=t$ とおくと,$\sin x,~\cos x,~\tan x$ をすべて $t$ で表すことができることを経験すると同時に,定積分も計算できることも経験しておきましょう。
2004年 広島大
\sin x+\sqrt{3}\cos x+c=0~\cdots\cdots(\ast)
\end{align*}
(1) $(\ast)$ を $\sin(x+A)=B$ の形で表せ。また,$c=\sqrt{3}$ のとき,$x$ の値を求めよ。
(2) $(\ast)$ が異なる2つの解 $\alpha,~\beta$ をもつための $c$ の条件を求めよ。
(3) $\tan\dfrac{x}{2}=t$ とおくとき,
\sin x=\dfrac{2t}{1+t^2},~\cos x=\dfrac{1-t^2}{1+t^2}
\end{align*}
(4) (2)の条件のもとで,$\tan\dfrac{\alpha+\beta}{2}$ の値を求めよ。
※当時のカリキュラムでは,弧度法は数学IIICで使われており,数学IIBまでは度数法を使っていました。問題文の原文では度数法が使われていますが,現在のカリキュラムに合わせるため,弧度法に変えて記述しています。
(1)は三角関数の合成の問題だね。
任せて下さい!
$(\ast)$ より
&2\left(\dfrac{1}{2}\sin x+\dfrac{\sqrt{3}}{2}\cos x\right)+c=0 \\[4pt]
&2\sin\left(x+\dfrac{\pi}{3}\right)+c=0 \\[4pt]
&\sin\left(x+\dfrac{\pi}{3}\right)=-\dfrac{c}{2}
\end{align*}
\left(x+\dfrac{\pi}{3}\right)=-\dfrac{\sqrt{3}}{2}
\end{align*}
&x+\dfrac{\pi}{3}=-\dfrac{\pi}{3} \\[4pt]
&x=-\dfrac{2}{3}\pi
\end{align*}
(2)は単位円を利用して考えよう。
\sin\left(x+\dfrac{\pi}{3}\right)=-\dfrac{c}{2}
\end{align*}
上図より
&-1<-\dfrac{c}{2}<1,~-\dfrac{c}{2}\neq-\dfrac{\sqrt{3}}{2} \\[4pt]
&-2<c<2,~c\neq\sqrt{3}
\end{align*}
(3)は基本事項だから必ずできるようにしよう!
基本だとは分かっているけど,いつも見るのがややこしい変形なので簡単な方法ってありますか?
じゃあ $\sin x$ だけ説明するよ。
お願いします!
\sin x&=2\sin\dfrac{x}{2}\cos\dfrac{x}{2}=\dfrac{2\sin\dfrac{x}{2}\cos\dfrac{x}{2}}{\color{blue}1} \\[4pt]
&=\dfrac{2\sin\dfrac{x}{2}\cos\dfrac{x}{2}}{\color{blue}\cos^2\dfrac{x}{2}+\sin^2\dfrac{x}{2}} \\[4pt]
&=\dfrac{\dfrac{2\sin\dfrac{x}{2}\cos\dfrac{x}{2}}{\color{red}\cos^2\dfrac{x}{2}}}{\dfrac{\cos^2\dfrac{x}{2}}{\color{red}\cos^2\dfrac{x}{2}}+\dfrac{\sin^2\dfrac{x}{2}}{\color{red}\cos^2\dfrac{x}{2}}} \\[4pt]
&=\dfrac{2\tan\dfrac{x}{2}}{1+\tan^2\dfrac{x}{2}} \\[4pt]
&=\dfrac{2t}{1+t^2}
\end{align*}
半角公式を利用して,$2\sin\dfrac{x}{2}\cos\dfrac{x}{2}$ と変形するのは,$\tan\dfrac{x}{2}$ で表すことを考えているから,当然の発想だと思えるようにしよう。
2行目の1を $\cos^2\dfrac{x}{2}+\sin^2\dfrac{x}{2}$ に変形することで,楽に $\tan\dfrac{x}{2}$ で表すことを可能にしている。
もう1つの $\cos x$ を同じようにして $t$ で表してみて?
任せて下さい!同じようにすればできますね。
\cos x&=\cos^2\dfrac{x}{2}-\sin^2\dfrac{x}{2} \\[4pt]
&=\dfrac{\cos^2\dfrac{x}{2}-\sin^2\dfrac{x}{2}}{\cos^2\dfrac{x}{2}+\sin^2\dfrac{x}{2}} \\[4pt]
&=\dfrac{1-\tan^2\dfrac{x}{2}}{1+\tan^2\dfrac{x}{2}} \\[4pt]
&=\dfrac{1-t^2}{1+t^2}
\end{align*}
次は $(\ast)$ を $t$ についての2次方程式で表そう。
$(\ast)$ より
&\dfrac{2t}{1+t^2}+\sqrt{3}\Cdot\dfrac{1-t^2}{1+t^2}+c=0 \\[4pt]
&2t+\sqrt{3}(1-t^2)+c(1+t^2)=0 \\[4pt]
&(c-\sqrt{3})t^2+2t+c+\sqrt{3}=0~\cdots\cdots①
\end{align*}
(4)は,①の2解が $\tan\dfrac{\alpha}{2},~\tan\dfrac{\beta}{2}$ となることに着目しよう。
また,$\tan\dfrac{\alpha+\beta}{2}$ を求めるのだから,加法定理を利用するのだろうと予想できる。
2つの解 $\alpha,~\beta$ に対して
t_1=\tan\dfrac{\alpha}{2},~t_2=\tan\dfrac{\beta}{2}
\end{align*}
t_1+t_2=-\dfrac{2}{c-\sqrt{3}},~t_1t_2=\dfrac{c+\sqrt{3}}{c-\sqrt{3}}
\end{align*}
\tan\dfrac{\alpha+\beta}{2}&=\dfrac{\tan\dfrac{\alpha}{2}+\tan\dfrac{\beta}{2}}{1-\tan\dfrac{\alpha}{2}\tan\dfrac{\beta}{2}} \\[4pt]
&=\dfrac{t_1+t_2}{1-t_1t_2} \\[4pt]
&=\dfrac{-\dfrac{2}{c-\sqrt{3}}}{1-\dfrac{c+\sqrt{3}}{c-\sqrt{3}}} \\[4pt]
&=\dfrac{-2}{(c-\sqrt{3})-(c+\sqrt{3})} \\[4pt]
&=\dfrac{1}{\sqrt{3}}
\end{align*}
2013年 大阪教育大
(i) $\sin x=\dfrac{2t}{1+t^2}$
(ii) $\cos x=\dfrac{1-t^2}{1+t^2}$
(iii) $\tan x=\dfrac{2t}{1-t^2}$
(2) $a,~b$ を実数とする。$x$ を未知数とする方程式 $a\sin x+b\cos x+1=0$ が,$-\pi<x<\pi$ の範囲に相異なる二つの解をもつとする。
(i) $a,~b$ の満たすべき条件を求めよ。
(ii) 二つの解を $\alpha,~\beta$ とするとき,$\tan\dfrac{\alpha+\beta}{2}$ を $a,~b$ を用いて表せ。
(3) 次の定積分を求めよ。
\dint{0}{\frac{\pi}{2}}\dfrac{1}{\sin x+\cos x+1}\;dx
\end{align*}
(1)の(i),(ii)は,さっきの広島大の問題と同じだから(iii)だけを解こう。
これは2倍角の公式を利用するだけですね。
\tan x&=\dfrac{2\tan\dfrac{x}{2}}{1-\tan^2\dfrac{x}{2}} \\[4pt]
&=\dfrac{2t}{1-t^2}
\end{align*}
次の(2)(i)は(1)を利用して $t$ の方程式で考えよう。
合成をしないのは係数が文字だから,さっきみたいに角度が決まらなくて,新たに文字でおかないといけないから(1)を利用するんですね。
文字が減るようにするのが基本だからね。増えてややこしくなるのを避けよう。
$-\pi<x<\pi$ のとき,$-\dfrac{\pi}{2}<\dfrac{x}{2}<\dfrac{\pi}{2}$ であるから,$t=\tan\dfrac{x}{2}$ とおくと,(1)の結果より,与えられた方程式は次のようになる。
&a\Cdota\dfrac{2t}{1+t^2}+b\Cdota\dfrac{1-t^2}{1+t^2}+1=0 \\[4pt]
&2at+b(1-t^2)+(1+t^2)=0 \\[4pt]
&(1-b)t^2+2at+1+b=0~\cdots\cdots①
\end{align*}
また,$t=\tan\dfrac{x}{2}$, $-\dfrac{\pi}{2}<\dfrac{x}{2}<\dfrac{\pi}{2}$ であるから,$t$ はすべての実数を取り得る。よって,与えられた方程式が $-\pi<x<\pi$ の範囲に相異なる二つの解をもつのは,①の判別式を $D$ とすると,$b\neq1,~D>0$ となるときである。$D>0$ より
&a^2-(1-b)(1+b)>0 \\[4pt]
&a^2+b^2>1
\end{align*}
b\neq1~~かつ~~a^2+b^2>1
\end{align*}
最初の広島大の問題と同じように考えよう。
二つの解 $\alpha,~\beta$ に対して
t_1=\tan\dfrac{\alpha}{2},~t_2=\tan\dfrac{\beta}{2}
\end{align*}
t_1+t_2=-\dfrac{2a}{1-b},~t_1t_2=\dfrac{1+b}{1-b}
\end{align*}
\tan\dfrac{\alpha+\beta}{2}&=\dfrac{\tan\dfrac{\alpha}{2}+\tan\dfrac{\beta}{2}}{1-\tan\dfrac{\alpha}{2}\tan\dfrac{\beta}{2}} \\[4pt]
&=\dfrac{t_1+t_2}{1-t_1t_2} \\[4pt]
&=\dfrac{-\dfrac{2a}{1-b}}{1-\dfrac{1+b}{1-b}} \\[4pt]
&=\dfrac{-2a}{(1-b)-(1+b)} \\[4pt]
&=\dfrac{a}{b}
\end{align*}
(3)で突然定積分の問題になっているけど,これも(1)の置き換えを利用しよう。
$t=\tan\dfrac{x}{2}$ とおくと
&dt=\dfrac{1}{2\cos^2\dfrac{x}{2}}\;dx~,~~\begin{array}{c|ccc}
x & 0 & \to & \dfrac{\pi}{2} \\\hline
t & 0 & \to & 1
\end{array} \\[4pt]
&dx=\dfrac{2}{1+t^2}\;dt
\end{align*}
&\dint{0}{\frac{\pi}{2}}\dfrac{1}{\sin x+\cos x+1}\;dx \\[4pt]
&=\dint{0}{1}\dfrac{1}{\dfrac{2t}{1+t^2}+\dfrac{1-t^2}{1+t^2}+1}\Cdota\dfrac{2}{1+t^2}\;dt \\[4pt]
&=\dint{0}{1}\dfrac{2}{2t+(1-t^2)+(1+t^2)}\;dt \\[4pt]
&=\dint{0}{1}\dfrac{1}{t+1}\;dt \\[4pt]
&=\tint{\log\abs{t+1}}{0}{1} \\[4pt]
&=\log2
\end{align*}
$\tan\dfrac{x}{2}$ で $\sin x,~\cos x,~\tan x$ を表す方法
頭の中で $\sin x,~\cos x,~\tan x$ を $\tan\dfrac{x}{2}$ で表せるようにしよう。また,三角関数の分数式の積分は,$\tan\dfrac{x}{2}=t$ と置いて,被積分関数を $t$ で表すことで積分できることを覚えておこう。
- $\sin x=\dfrac{2t}{1+t^2}$
- $\cos x=\dfrac{1-t^2}{1+t^2}$
- $\tan x=\dfrac{2t}{1-t^2}$