ここではある病気に対する検査で陽性と判定された人が,本当にその病気に罹っている確率について解説します。
検査の精度は100%ではないため,陽性と判定されても本当は病気に罹っていない(偽陽性という)こともあります。
逆に陰性と判定されても本当は病気に罹っている(偽陰性という)こともあります。
このようなことを理解するためには「条件付き確率」を理解することが重要です。
実際に出題された入試問題を用いて説明します。
2019年 成城大
(1) この個体が実際に病原菌に感染していて,かつ陽性と判定される確率を求めよ。
(2) この個体が実際には病原菌に感染しておらず,かつ陽性と判定される確率を求めよ。
(3) この個体が陽性と判定されたときに,実際には病原菌に感染していない条件付き確率を求めよ。
(4) この個体が陰性と判定されたときに,実際には病原菌に感染している条件付き確率を求めよ。
検査をして陽性と判定される事象を $A$,病原菌に感染している事象を $B$ とする。
実際に病原菌に感染していて,かつ陽性と判定される確率 $P(B\cap A)$ は
P(B\cap A)&=P(B)\Cdota P_B(A) \\[4pt]
&=\dfrac{0.5}{100}\Cdota\dfrac{99}{100}=\dfrac{99}{20000}
\end{align*}
(2) この個体が実際には病原菌に感染しておらず,かつ陽性と判定される確率を求めよ。
病原菌に感染しておらず,かつ陽性と判定される確率 $P(\overline{B}\cap A)$ は
P(\overline{B}\cap A)&=P(\overline{B})\Cdota P_{\overline{B}}(A) \\[4pt]
&=\dfrac{99.5}{100}\Cdota\dfrac{1}{100}=\dfrac{199}{20000}
\end{align*}
(3) この個体が陽性と判定されたときに,実際には病原菌に感染していない条件付き確率を求めよ。
陽性と判定されるのは,実際に病原菌に感染しているときと実際には病原菌に感染していないときがあるから,その確率 $P(A)$ は
P(A)&=P(A\cap B)+P(A\cap\overline{B}) \\[4pt]
&=\dfrac{99}{20000}+\dfrac{199}{20000}=\dfrac{298}{20000}=\dfrac{149}{10000}
\end{align*}
P_A(\overline{B})&=\dfrac{P(A\cap\overline{B})}{P(A)} \\[4pt]
&=\dfrac{\dfrac{199}{20000}}{\dfrac{298}{20000}}=\dfrac{199}{298}
\end{align*}
(4) この個体が陰性と判定されたときに,実際には病原菌に感染している条件付き確率を求めよ。
陰性と判定される確率 $P(\overline{A})$ は(3)より
P(\overline{A})&=1-P(A) \\[4pt]
&=1-\dfrac{149}{10000}=\dfrac{9851}{10000}
\end{align*}
P(\overline{A}\cap B)&=P(B)\Cdota P_B(\overline{A}) \\[4pt]
&=\dfrac{0.5}{100}\Cdota\dfrac{1}{100}=\dfrac{1}{20000}
\end{align*}
P_{\overline{A}}(B)&=\dfrac{P(\overline{A}\cap B)}{P(\overline{A})} \\[4pt]
&=\dfrac{\dfrac{1}{20000}}{\dfrac{9851}{10000}}=\dfrac{1}{19702}
\end{align*}
2018年 昭和薬科大
(1) 病気に罹っていて,なおかつ検査結果が陽性である確率 $P(B\cap T)$ を求めよ。
(2) この検査で陽性と判定される確率 $P(T)$ を求めよ。
(3) 陽性と判定された人が本当に病気に罹っている確率 $P_T(B)$ を求めよ。また,陰性と判定された人が本当に病気に罹っていない確率 $P_{\overline{T}}(\overline{B})$ を求めよ。
人口の $10\%$ が病気に罹っているから,その確率は $P(B)=\dfrac{1}{10}$ である。病気に罹っている人を陽性と正しく判定する確率が $80\%$ であるから,$P_B(T)=\dfrac{80}{100}=\dfrac{4}{5}$ である。
したがって,求める確率は
P(B\cap T)&=P(B)\Cdota P_B(T) \\[4pt]
&=\dfrac{1}{10}\Cdota\dfrac{4}{5}=\dfrac{2}{25}
\end{align*}
(2) この検査で陽性と判定される確率 $P(T)$ を求めよ。
この検査で陽性と判定されるのは次の2つの場合がある。
(i) 病気に罹っていて陽性と判定される
(ii) 病気に罹っておらず陽性と判定される
(i)のときの確率は $P(B\cap T)$ であり,(1)より $P(B\cap T)=\dfrac{2}{25}$
(ii)のときの確率は
P(\overline{B}\cap T)&=P(\overline{B})\Cdota P_{\overline{B}}(T) \\[4pt]
&=\dfrac{9}{10}\Cdota\dfrac{2}{10}=\dfrac{9}{50}
\end{align*}
P(T)&=P(B\cap T)+P(\overline{B}\cap T) \\[4pt]
&=\dfrac{2}{25}+\dfrac{9}{50} \\[4pt]
&=\dfrac{13}{50}
\end{align*}
(3) 陽性と判定された人が本当に病気に罹っている確率 $P_T(B)$ を求めよ。また,陰性と判定された人が本当に病気に罹っていない確率 $P_{\overline{T}}(\overline{B})$ を求めよ。
$P_T(B)$ は次の表において,$\dfrac{①}{①+②}$ である。
(1), (2)の結果より,陽性と判定された人が本当に病気に罹っている確率は
P_T(B)&=\dfrac{P(B\cap T)}{P(T)} \\[4pt]
&=\dfrac{\dfrac{2}{25}}{\dfrac{13}{50}}=\dfrac{4}{13}
\end{align*}
与えられた条件より
P(\overline{B}\cap\overline{T})&=P(\overline{B})\Cdota P_{\overline{B}}(\overline{T}) \\[4pt]
&=\dfrac{9}{10}\Cdota\dfrac{8}{10}=\dfrac{36}{50}
\end{align*}
P(\overline{T})&=1-P(T) \\[4pt]
&=1-\dfrac{13}{50}=\dfrac{37}{50}
\end{align*}
P_{\overline{T}}(\overline{B})&=\dfrac{P(\overline{B}\cap\overline{T})}{P(\overline{T})} \\[4pt]
&=\dfrac{\dfrac{36}{50}}{\dfrac{37}{50}}=\dfrac{36}{37}
\end{align*}
陽性と判定されたときに実際に感染者であるかどうか
2019年の成城大の問題では,陽性の人を陽性と判定し,陰性の人を陰性と判定する確率がともに $99\%$ と非常に高い検査をしている。
非常に精度の高い検査であっても,感染者の割合が少ない対象に検査をすると,陽性と判定されても実際には感染者ではない確率が約 $\dfrac{2}{3}$ になってしまう。
「検査結果は陽性でした。でも約 $\dfrac{2}{3}$ の確率で感染者ではありません。」と言われたらどう感じるだろうか?
ついでに「感染者ではないかもしれませんが,陽性なので隔離しますね。」と言われる。
感染者ではない人がどんどん隔離されることは容易に想像できるだろう。
これにより病床が足りなくなり,医療崩壊につながる。
したがって,検査をするときにはある程度,その対象を絞って感染している人の割合を高くする必要がある。
「条件付き確率」を理解することで,検査対象を絞る必要があることも簡単に理解できる。